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波崎の大タブ -茨城県神栖市-

神栖市波崎は、茨城県最南端、利根川河口近くに位置する。東京から波崎に達するにはかつてはかなりの時間を要したが、現在では利根川に架けられた銚子大橋を利用すれば容易となった。鹿島灘に沿っては大洗町から利根川河口の波崎まで南南東に弓状に延びた砂州・砂丘地形があり、この地域は陸の孤島に近い一寒村に過ぎなかった。ところが、1965年から中南部に鹿島港が掘削されてからは激変した。現在、鹿島港湾付近は臨海工業地帯となっているが、それに対して南端に位置する波崎は、銚子との結びつきが強いものの昔の姿を残している。

 波崎の中心街から少し北西に位置する舎利集落の中心に神善寺がある。神善寺の境内に入ると、その山門付近に大地にどっしり腰をすえ、四方に曲がりくねった大枝を伸ばすタブノキが目に飛び込んでくる。枝の横への張り方がものすごいので、樹髙は 15 mとそれほどでもないが、それでも幹周り8.4 m に達する。主幹の根元付近には奇怪なこぶが大きく盛り上がっており、それを覆うように多くの石仏が祀られている。根元にツバキが着生し、3 月中旬に訪れた時には、一輪の赤い花が咲いていたのが印象的であった。樹齢は約700年とのことであるが、いささかも衰えを感じさせない樹勢である。この木はタブノキとしては日本第3位の巨木で、「神善寺のタブ」とも呼ばれている。江戸時代に、近くで大きな野火が起こり、舎利集落まで火が迫ったが、このタブノキによって延焼が阻止されたと伝えられている。それ以降、この木は「火伏の木」とも呼ばれるようになり、また太平洋戦争の空襲によっても、この木だけが焼夷弾を一発も受けなかったことなどから、地区の人々からより一層大切にされるようになった。

 さらに、2011年の東北地方太平洋沖地震では、本地域に高さ10.8 m の津波が到達したとされている。神善寺付近の標高が 10 m を少し超えるくらいであるが、タブノキが被災したというニュ-スはない。タブノキは、またしても地域を守ったのであろうか。

          新潟大学名誉教授 鈴 木 郁 夫
波崎の大タブ -茨城県神栖市-_e0119669_13344899.jpg

by meiboku | 2012-07-24 13:34 | 波崎の大タブ  

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