<   2009年 02月 ( 1 )   > この月の画像一覧

 

言問(こととい)の松 -北海道豊富町-

 北海道北部は本州に比べれば、当然のことながら高緯度に位置しているために厳しい気候である。たとえば、日本列島北端の稚内、中部の東京、南西端の那覇(沖縄県)の気温を比べてみると、年平均気温で稚内と東京で約9℃、東京と那覇で約7℃の違いがある。この違いは、津軽海峡と大隅諸島・吐噶喇(とから)列島間付近が大きな境界に当たっており、気候学的に、前者は熱帯気団の北上限界(夏のロスビ-・ハドレ-境界)、後者は寒帯気団の南下限界(冬のロスビ-・ハドレ-境界)とほぼ対応していると考えられている(中村ほか、1996)。夏の北海道が概して快適な気候であることは、これによって説明できる。

 北海道北端にはサロベツ原野と呼ばれる、国内有数の湿原が広がっており、利尻礼文サロベツ国立公園に指定されている。広々としたサロベツ原野から眺める雄々しい利尻山(1,721 m)は、北海道を代表する景観である。
 サロベツ原野の北端に、かつてのサロベツ湾が陸封された兜沼(かぶとぬま)がある。兜沼の西側の阿沙流(あちやる)台地の東向き斜面に「言問の松」が立っているが、松ではなくイチイ(オンコ)である。推定樹齢1,200年とされ、名称は、長い間、この付近を見守ってきたことから、尋ねれば何でも教えてくれると信じられ、「言問」と命名されたという。イチイの成長速度は遅いので樹髙14 m、幹周り 4 m であるが、樹形は、片側だけに枝が伸び、それと反対方向にはほとんど枝が見られず、一風変わっている。このような木を、植物地理学では、偏形樹とよんでいる。偏形樹は年間卓越風、あるいは春~秋の成長期の卓越風によって、風上側への枝の生長が阻害され、逆に風下側へ成長することによってつくられるとされる。したがって、気象資料がないところ、あるいは高い山地などでの年間卓越風の風向、あるいは偏形の程度によって風力などは推定できる。この「言問の松」の偏形から推定できる卓越風向は南風であり、実際に防風ネットは南側にのみ作られている。なお。この木を切り倒そうとすると、病気になったり、怪我をすることから、この地域を守り神として尊崇されてきたという。
e0119669_13104891.jpg
 未知の地域で、樹木の種類、偏形樹、屋敷森の分布、屋根の形態・家屋構造などの気候景観を手がかりとして、多くのことを推定することも楽しいのではないだろうか。

 新潟大学名誉教授 鈴 木 郁 夫
[PR]

by meiboku | 2009-02-19 13:15 | 言問(こととい)の松