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高熊のサイカチ ~富山市八尾町高熊~

 富山県の9月は、八尾の「おわら風の盆」からはじまる。富山県婦負郡の旧八尾町(現在、富山市に合併)の中心街は、室牧川、野積川が合流して井田川(神通川の支流)となる付近の右岸に位置する。市街地はいくつかの坂に沿って古い家並みを残している。この坂から井田川左岸を見下ろすと、八尾温泉おわら観光リゾ-トホテルの南側に大きな木が立っているのがわかる。

 大木はサイカチで、高熊集落の鎮守、八坂神社の社叢として自生したとされているが、その後、神社との間に小道が造られたので分断された。樹髙16 m、幹周り4 m、推定樹齢400年、富山県指定の天然記念物である。3 株が寄り添うように生育し、株の根元に大きな空洞や腐食している部分がみられるものの樹勢は良好で、大きく枝をひろげている。主幹は井田川沿いの道路側に少し傾いているので、倒れることがないように数本の支枝に添え木が立てられている。

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 八尾は、浄土真宗本願寺派聞名寺が天文年間(1532~55)にこの地に坊を移してから、門前町として発展、さらに南側の背後の山村との交易、富山の売薬の包み紙としての和紙製造などで繁栄した。現在では、石垣、坂道沿いの町並みを残し、そこで行われる「風の盆」はあまりにも有名である。8月20~30日の前夜祭を経て、9月1~3日に二百十日の風無きを祈り豊穣を願う行事「風の盆」は、民謡『越中おわら節』にのって、おわら踊りの町流しが行われる。「風の盆」の起源は、文献などでもはっきりしないが300年の歴史があると言われ、哀調の中に優雅さを持つ詩的な唄と踊りである。この行事は、高橋 治『風の盆恋歌』(1985)によって一躍有名となり、全国区の大イベントとなった。さらに、5月5日に行われる八幡社例祭としての曳山祭は、寛保年間(1741~44)に始まったと言われ、絢爛豪華な曳山は往時に栄えた八尾町人の心意気を現在に伝えてくれる。観光客が集まる曳山祭や「風の盆」のときだけでなく、静かな八尾の坂道をゆっくり歩くのも、それなりにいいものである。富山平野縁辺の旧市町村、上市、立山、八尾、庄川、井波、城端、福光は、それぞれ歴史遺産に富む魅力にあふれたところである。


新潟大学名誉教授 鈴 木 郁 夫
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by meiboku | 2007-09-18 17:00 | 高熊のサイカチ