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薄根の大クワ ~群馬県沼田市~

 関越自動車道を東京から新潟方面に向かって走ると、沼田インタ-を過ぎてすぐに右側の車窓に飛び込んでくるのが、小さいけれども端整な円錐形をした戸神山(780 m)である。同じ呼称の山は山形盆地の南西方(富神山、402 m)および仙台市太白区(戸神山、504m)にもあり、いずれも展望に優れ、形態的にも非常によく似ている。この戸神山の西麓は、利根川に流入する四釜川が造りあげた河成段丘面で、沼田市町田町字小栗山2083 にあるのが「薄根の大クワ」である。薄根とは、この地域の旧村名、薄根村に由来する。

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昭和30年代前半までは、養蚕業、製糸業などは日本の代表的な産業の一つであった。その養蚕業をリ-ドしてきたのが、群馬県、長野県であることから考えると、群馬県にヤマグワの大木が「養蚕の神」として、近隣の人々から尊崇されてきたというのは頷けることである。樹髙13.7 m、幹周り8 m、枝張りは東西17.3 m、南北16.5 m、推定樹齢1,500 年、国指定の天然記念物で、クワとしては日本三名木の一つとされている。根元付近で大きく2本に分かれているが、現在でも枝葉の成長が認められ、美しい扇形をつくっている。ごつごつした太い幹からは長い期間にわたって成長をとげてきた証が感じられる。樹木近くの看板によれば、貞享3(1686)年、5代将軍徳川綱吉の命によって、高須隼人が沼田藩の検地を行った際、この大クワを検地の標木としたと伝えられているので、この時代から目立った大木であったことになる。

 上越本線沼田駅付近は、最近こそ首都圏からの尾瀬(2007. 9. 1、日光国立公園から分離し、尾瀬国立公園となる)への玄関口として賑やかになってきたが、かつては国道17号沿いにいくつかの製材所が見られるにすぎない、とても「市」の駅前とは言えないような寂しさであった。実は駅前から比髙約100 mの急坂(=段丘崖)を登った平坦面(=段丘面)に、立派な市街地が造られている。この広い平坦面の形成は、今から約12万年前ころの赤城火山の活動による火砕流堆積物およびその後の火山麓扇状地の発達によって、利根川が閉塞されて、上流に「古沼田湖」とよぶ大きな水域を出現させたことによる。沼田市街地を造る平坦な台地は、湖に堆積した厚さ60 m を超える地層とそれを覆う火山灰層から成り立っている。

新潟大学名誉教授 鈴 木 郁 夫
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by meiboku | 2007-10-21 09:08 | 薄根の大クワ