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黒槐(くろえんじゅ)の木 -長野県東御市-

 「信濃の国」は、長野県の小・中・高校の入学式、始業式、卒業式など機会ある毎に12年間歌うので、県民で知らない人はほとんどいない。校歌は学校を卒業すれば歌わなくなるが、「信濃の国」は記憶力の旺盛な時期に加えて、その後も同窓会をはじめとするいろいろな会でも歌うことがあり、決して忘れない。このように県民歌が定着しているのは、長野県だけと言われる。「信濃の国」は1899年長野師範教諭浅井 洌(漢学・国文・歴史担当)が作詞、歌詞には、平野(=盆地)、河川、山、産業、人名など地理・歴史に関わる語句が頻繁に使われている。浅井は前任の松本中学校で同僚の志賀重昴(『日本風景論』などの著作であまりにも有名)の影響で地理学に関心を深めことによるとされている。その歌詞の一番に「---松本、伊那、佐久、善光寺、四つの平(=盆地)は肥沃の地--」とある。ここでは、上田盆地は佐久盆地の一部と解されているようであり、また、諏訪盆地などの名称も出てこない。

 前置きが長くなったが、上田盆地の南東端、千曲川左岸、東御市島川原の諏訪神社の一隅に、この黒塊の木がある。神社といっても集落の背後に忘れられたようなきわめて小さな祠があるだけで、注意しないと見過ごす恐れがあるほどである。黒塊の樹髙は30 m、幹周り5 m、主幹は上方で 2 本に枝分かれ、節々で折り曲がったような独特な形で分岐している。もう一つの特徴は樹皮で、黒っぽい粗い亀裂が無数に走っていることである。エンジュはマメ科の落葉高木で、仏教伝来と同じ頃に、中国から伝わったと言われる。この付近は平安時代には朝廷の牧であった御牧ヶ原の北半部に当たっているので、そのころに植栽されたものであろうか。いずれにしても巨木であり、エンジュ(マメ科)としては国内有数とのことである。この樹木の生育しているところから東北東方向に浅間山が望まれるので、黒槐は鎌倉~江戸時代、とくに天明年間の大噴火をどのように見ていたのであろうか、活動のようすを聞きたいものである。

 新潟大学名誉教授 鈴 木 郁 夫
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by meiboku | 2013-05-20 14:09 | 黒槐(くろえんじゅ)の木