天然スギの原生林 ~新潟県佐渡北部~

 日本海沿岸の地域の冬は、太平洋岸に比べれば想像できないほど厳しい。それは激しい冬季季節風によるものであり、世界の1月の上空3000 mの風の強さを調べてみると、平均秒速 20 m を超える強風が吹き抜けているのは日本列島だけであるという(東京学芸大教授小泉武栄)。ヨ-ロッパアルプスやロッキ-などの風速をみると、それぞれ平均10 m/秒程度、10~15 m/秒程度であり、日本列島には5000 mを超える高山がないので、高度 3000 mでは世界一の強風域となっている。この値は平均風速であるから、瞬間最大風速はおそらくこの2~3 倍にもなるであろうと予想される。強風で知られた富士山頂での観測によれば、 1 月の瞬間最大風速は例年70 m/秒を超えているという。

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 佐渡の最高峰は金北山(1172 m)に過ぎないが、冬季季節風に支配される山地の上部
斜面は風衝草原も見られるなど、高山的植生分布を示す。ところで、今回、取り上げたのは標高 800~1000 m に分布する天然スギの原生林である。この存在は古くから知られていたが、新潟大学農学部の佐渡ステ-ション演習林におよそ5000~6000本も存在すると言われている。さらに、杉の巨木は樹髙・幹周りが大きいことに特徴があるが、佐渡では、ほとんどが樹髙が低い上に、季節風による傷害によって根元付近で複雑に屈曲をし、樹齢は500年を超える個体も多数含まれている。筆者は佐渡市の環境教育講座の一環として、2007年8月22日に演習林を訪れた。当日は時々激しい降雨があるような気象条件であったが、それだけに周囲を海に囲まれた標高の高い山に水分を多量に含んだ風が駆け上がることにより、特定の標高帯に恒常的に雲や霧が発生するような「雲霧帯林」(新潟大学准教授本間航介)の雰囲気を醸し出していた。外海府の佐渡ステ-ションから未舗装の林道を自動車で約1時間半登ると、不安定な山地斜面の所々に佐渡最大級の大王スギ(幹周り2 mを超える)をはじめ、千手スギ(写真)、仁王スギなどそれぞれ名称の付けられた杉の巨木が見られる。この森は新潟大学農学部の実習の演習林として、1955年に県有林から移管されたものものだが、元々は佐渡金山と一体の御料林であったという。これらの巨木の中で、現段階で国、県、市の指定を受けた個体はなく、佐渡金山、トキ放鳥などと合わせて原生林として世界遺産の指定をを目指しているように思われる。なお、新潟県旧巻町出身の天野 尚が大型カメラを駆使して撮影した『佐渡-海底から原始の森へ-』には、巨木を中心とする佐渡の四季が美しく紹介されている。

新潟大学名誉教授 鈴 木 郁 夫
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by meiboku | 2008-02-19 09:31 | 天然スギの原生林  

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